理想実現神話

彼のいった言葉に、ひどく動揺したのを覚えている。
答えられなかったのではなく、答えたくなかっただけ
と言うことを、彼は知らない。
知らなくていい。

そんなこと

「少し休んだらどうですか?」
骸が綱吉の書斎に入ってきた。
手には、綱吉のためにブレンドした紅茶を持っている。
「あぁ、ありがとう。」
そう言いつつも、サインするための書類から眼を離さない。
綱吉の顔には、少なからず疲れが伺える。
心配そうに綱吉を見つめながら、骸は紅茶を机の上に置いた。
「ねぇ、骸。」
綱吉は、手を止めると骸のほうを見る。


その質問は、あまりにも唐突だった。


「なんで、霧の守護者になってくれたの?」

ドキッ
その一言に体が震えた。
だが、それを綱吉に悟らせるわけには行かない。
「なぜ?とは」
質問を質問にして返す。骸の悪い癖だ
「僕が、霧の守護者にならないほうがよかったんですか?」
思ってもいないことが口からこぼれる。
そんなことを言って困らせるつもりは無かったし、困らせたくなかった
彼は、今や嫌がっていたボンゴレのボスとなり、
すべての中心。中枢として動いている。
そのぶん、かかる負担は半端ないだろう。些細なことで
彼の荷物を増やすつもりは無かったし、
自分は、その荷物を一緒持つ人間だと思っている。
「そんなことを言ってるわけじゃないよ。」
残酷な彼は、いつものように優しい声音で僕に語る。
外の空の青さが、君の悲しい笑顔に似ていた。
「骸が、霧の守護者になってくれたとき、心づよかったし
 何よりうれしかったよ。」
空を見つめる綱吉。
「でも、君は、マフィアを滅ぼそうとしていたし。
そのために、獄寺くんたちを傷付けた。そのことを僕は絶対に許さない。」
信念のともった声。そこ声から放たれる言葉は、
真っ直ぐに骸の胸に突き刺さった。
「いいませんでしたっけ。」

小さな沈黙を骸が破る。
「守護者戦の時に、僕はいいませんでしたか・・・?」
「あなたの体をのっとるのに都合がいいから守護者になったと。」
ニコリと
小さく微笑む。
微笑む笑顔は、珍しく悲しみの色をうかがえるものだった。
その表情を一瞬で隠す。だが、綱吉がその一瞬を見逃すはずがない。
10年前の何も知らない幼い頃の自分ならまだしも。
「そう、だよね。」
「ごめんね。変なこと聞いて。」 小さな苦笑。
また困らせてしまったような気分。気分、と言う前に多分困らせている。
そういうときに流れる空気は、嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
そんな自分が、どんな人間だか知っている。
「クッフフ。」
骸がいきなり笑い出す。あまりにも唐突だったので、
綱吉は何がおきたのか分からないでいる。
「フフフクハハハハハハハ。」
狂ったように笑い出す。
「む・・骸、だ・・大丈夫?」
「フ・・大丈夫ですよ。クフフフ。」
わたわたとあわてる綱吉を見て、ニヤニヤと顔を緩ませる。

本当のことなどいえるわけがない。
この思いは、一生かけて僕の中で死んでいく思いだと
気づいたときに決めていた。
ダカラと言って、誰かに渡してやるつもりもない。

「どうぞ。」

そういって、紅茶を差し出す。
ありがとう。といって、骸に笑顔を向ける。
誰にでも渡す、笑顔を。
何の疑いも無く、紅茶を飲む綱吉、
完全に安心しきっている。信じきっている。
僕のことを

パリーン

綱吉の手から、紅茶の入ったカップが離れ、宙を舞う。
「む・・くろ・・これ・。」
うつろな眼で骸を見つめる。言いたい言葉は声にならず
夢の世界へと力なく溺れていった。
「そのままお休みなさい。  綱 吉 。」
力なく倒れ行く綱吉をまるで、壊れそうなガラスのように
大事に抱きしめ、今にも泣きそうな顔をしながら綱吉を見つめた。
「いったでしょう?。あなたの体を乗っ取ると。」

誰にも渡さない。 僕の獲物
誰にも触らせない。 僕の愛しい人
愛してるから 傷付けたくて
愛してるから 壊したい

壊して
壊して
ぼろぼろにして
僕だけのもの
誰にも渡さない。


「一生僕を憎めばいい。僕以外考えられなくなるくらい。」




その日を境に、ボンゴレファミリー10代目の沢田綱吉と
その霧の守護者である六道骸が、姿を消した。
ボンゴレが、ただいま捜索中であるが、依然見つかっていない。
一部の人間からは、「ボンゴレが探して出てこないと言うことはもう・・。」
という、意見も出されている。